マグネットポンプの特徴

シールレスマグネットポンプの3つの特徴

「WORLD PUMP」の記事より抜粋

1. 全く液漏れしない

シールレスマグネットポンプ(Sealless MDPs:Sealless Magnetic Drive Pump)はシールポンプ(sealed pumps)の軸シールの機構上どうしても避けられないシールからの液漏れを防ぐため、動力伝達シャフトをポンプの外側から内側へ貫通させるのをやめ、ポンプケーシングの壁を隔てて永久磁石や電磁石で動力伝達をするようにしたものである。 したがって軸シールが無いのであるから洩れも全く無い。 これが第一のマグネットポンプの特徴である。この無漏洩の特質は信頼性と安全性を生む。

2. タフで耐久性が高い

第二の特徴は温度と圧力の使用範囲をシールポンプよりも広げ易いことである。 シールポンプではどうしても軸シール部の耐熱あるいは冷却及び耐圧に制限があり限界が低い。

3. メンテナンスが容易

さらに第三の特徴はMTBF(mean time between failure:平均故障時間間隔)が長く、デザインもコンパクトなためメンテナンスが安易なことである。

これらの3つの特徴より、今後もシールレスの用途はシールポンプを使用していた既存分野、さらには新規分野にも拡大していくことはまちがいない。

既存分野におけるシールレスマグネットポンプ

プロセスポンプが数多く使われる業界に、石油化学や化学工場など化学業界がある。この分野で取り扱われている液は種類が多く、物理的・化学的性状も多様であり、ポンプメーカー、プラントメーカー、ユーザーは常に個別の最適対応を求められてきた。
酸、アルカリ、ハイドロカーボン、アンモニア、PCB、冷媒、熱媒、熱水、液体窒素、ラテックス、溶融イオウなど数えればきりが無い。

腐食性、可燃性、有毒、有害、低温、高温、高圧、スラリーや固形物の有無などプロセス中の物理的・化学的変性など性質もさまざまである。 これらの液を一種類のポンプでハンドリングすることはできない。

この分野では昔はメカニカルシール付のポンプが多く使われていた。しかしそのメカニカルシールの種類は何種類になるだろうか。基本的なメカニカルシールの種類は限られているものの、材質、補助装置などを考えるとその組合せは何百種類にものぼる。 この種類の多さによる複雑さは我々に非常な注意と労力を要求する。 さらに細心の注意と多大な労力をはらってもメカニカルシールからの液もれによるシールポンプのトラブルは多い。 またケミカルプロセス中の使用液の多様性に対応する為にはメカニカルシールでは限界がある。 メカニカルシールの耐熱、耐圧限度は通常200℃、6Mpaである。最近では450℃、20Mpaまでその適用領域を広げているが、大容量の冷却装置や段階的に圧力を下げていく多重シールなど、プロセス液の多さに適合する為の複雑性に加え、高温度、高圧力に対応するための機構や材質がさらに複雑さを増す。シールレスマグネットポンプはシールポンプに比べ対応がはるかに簡単である。
マグネットポンプにはマグネットポンプとキャンドモーターポンプ(canned motor pumps:キャンドポンプとも呼ばれる)と2種類ある。 マグネットポンプは接液部が金属製のものと樹脂製のものがある。 このうち樹脂製のものの耐熱温度は100℃前後、耐圧は1Mpa程度である。
金属製のキャンドモータポンプの耐熱は高温液付近にあるモーターの巻線の耐熱温度と巻線の保護機構によって決まる。金属製マグネットポンプではモーターが高温のシステム液から隔離されているためマグネットの磁力をそこなわない温度によって決まり、三和マグネットポンプでは450℃の高温液に対応している。

【写真1】ヘビーデューティー対応 ステンレス製マグネットポンプ MAXP【写真1】ヘビーデューティー対応 ステンレス製マグネットポンプ MAXP

通常150℃までは希土類ネオジウム(Nd)マグネット採用、450℃の高温では希土類サマリウムコバルトマグネット(SmCo)を使用する。 ケミカルプロセスポンプ分野では漏れてはいけない液のために数多くのマグネットポンプが使用され、マグネットポンプにも種類があることを述べてきた。その内マグネットポンプの代表的な機種であるMAXPを右の【写真1】で示す。 
一般的に液洩れしても無害な液、例えば常温、常圧の水を扱うような分野で従来からシールポンプが広く使われている。軸シール付のいわゆる水ポンプであるが、鉱山、発電所、造船所、工場であるいは農業用や水道用としてあらゆる所で使用されており、


【写真2】スーパーコンビューターの冷却循環用 マグネットポンプ MMA-FA【写真2】スーパーコンビューターの冷却循環用 マグネットポンプ MMA-FA

このような分野でシールポンプがひき続き使われるであろう。しかしながら同じ水といえども、マグネットポンプが指定される分野もあり除々にその分野は拡大している。例えば数年前に大型化するスーパーコンピューターの冷却水循環ポンプとしてステンレス製マグネットポンプが数千台使用された【写真2:スーパーコンピューターの冷却循環用マグネットポンプ MMA-FA】。 これはコンピューターへの適用ということで信頼性が重要視されたからである。その他には超純水の輸送にマグネットポンプは重要な役割となろう。超純水はその製造装置や純水洗浄装置あるいは薬品や食品の原料などとして使用するプロセス液として使われる。

シールレスマグネットポンプ独自の新分野

【写真3】耐高温(400℃)高耐圧(29.4mpa)マグネットポンプ MHP-HT【写真3】耐高温(400℃)高耐圧(29.4mpa)マグネットポンプ MHP-HT

ここ数年間でマグネットポンプがどのような分野に広がっているのかについてふれる。 液晶や半導体製造分野では精度や信頼感の高い(故障の少ない)装置が求められている。 このような分野ではポンプの信頼性が装置の信頼性に直接結びつく。また故障が起きた場合の復旧も重大問題であるが、この場合は部品を交換すれば復旧が簡単にできるマグネットポンプが有利であろう。マグネットポンプは超臨界流体を利用した環境問題分野での公害物質の無害化プロセスや食品、医薬分野のプロセスや装置にも使用されている【写真3】。 超臨界流体は熱水または炭酸ガスが主であるが、性質が特異で液体と気体の間の特質を持つ高温・高圧の流体である。 超臨界流体はその温度・圧力をコントロールすることにより分解や抽出の化学反応を選択的にできるので従来のケミカルプロセスより便利である。金属製マグネットポンプでは高温と高圧でもその機構そのものを変える必要はない。考慮すべきことはどの種類のポンプにも要求される、耐熱材料、耐圧強度及びモーター巻線への熱影響対策である。

据付におけるマグネットポンプのいろいろ

【写真4】縦置きインラインマグネットポンプ MPCP【写真4】縦置きインラインマグネットポンプ MPCP

従来ケミカルプロセス分野におけるマグネットポンプはポンプとモーターが分離しておりそれらが共通のベース上に乗っているタイプ(long-coupled type)がほとんどであった。また装置組込用のマグネットポンプはポンプとモーターが直接結合されたもの(close-coupled type)のみであった。

これらのマグネットポンプは前者が中・大型、後者が小型のマグネットポンプで完全に住み分けされていた。ところが近年、中型の中でも小型のものからclose-coupled typeのマグネットポンプが製作されケミカルプロセス分野でも使用され始め、次第にその数と使用範囲を増やしている。これはclose-coupled type がlong-coupled typeに比べ中間のシャフトやその軸受がない分初期コストと燃費コストが安くつくことと、芯出しが不要で取り扱いが簡易、安全性についても同等という認識が広がっていった結果と思われる。
close-coupled typeはモーターのシャフトに直接外側のマグネットカップリングを装着するが、カップリングの重量がささえられるモーターかどうかでその上限が決まる。 今のところは15kWぐらいを上限としているが、モーターメーカーの協力があればさらに大きく範囲を広げることができるのであろう。 マグネットポンプはたて置でも使用される【写真4・5】。立形のポンプで心配されたのが内側のマグネットカップリングを入れる為のケーシングからエアー抜きができるかどうかであった。

【写真5】竪型マグネットポンプ MVIC【写真5】竪型マグネットポンプ MVIC

液中ベアリングはドライ運転では破損する。この過程には2つあってドライ運転でベアリングが温度上昇して非常は高温になることによって起こる破損と、温度上昇したベアリングがシステム液にふれることによる急激な冷却による破損がある。立形のポンプでは液張りの時にケーシングの上部にエアーが残って上部のベアリングは液に浸からないことになる。サンワマグネットポンプではこの点特に注意して設計されており、インペラーが回転を始めると直ぐに内部の循環穴の入口と出口に圧力差を生じエアーはポンプの外に押し出される。この時間は数秒であってベアリングが高温になる前にシステム液でベアリングが潤滑、冷却されることと軸受材料の適切な選定で縦置きマグネットポンプも問題なく運転されている。


金属製マグネットポンプの選定

ポンプを選定する場合の採用基準として考えるべき事は多いが、マグネットポンプが選定されるのは次の3つの場合がある。

  1. 液モレしてはいけない液(人、システム、装置、環境に対して有害)や高温、高圧液などに対して要求される能力、特性(無漏洩、耐熱、耐圧)が他の種類のポンプでは満たされない時。
  2. メンテナンスに手間やコストをかけたくない時。
  3. トータルコストが他のポンプよりも低くおさえられる時。
【表1】 
マグネットポンプとシールポンプのライフサイクルコスト(データは50m³/hx50m ヘッドの仕様点による)
ポンプタイプ イニシャルコスト ランニングコスト EPA
モニター費
10年間
ライフサイクルコスト
API規格610準拠シールポンプ 4600 28800 25100 58500
ANSI規格シールポンプ 2000 25400 25100 52500
DIN規格マグネットポンプ 2900 13800 N/A 16700
API規格マグネットポンプ 3500 14400 N/A 17900
PCバーナード、エクソンケミカル Ltd,The way forward、プロセスポンプセミナー議事録
The state of the art, P63~P70, 1991, the Institution of Mechanical Engineers, London.

ライフサイクルコストとは

  1. イニシャルコスト(購入コストや据付コスト)
  2. ランニングコストすなわち、運転コスト(燃費、電力費、潤滑油、冷却水代、オペレーターの人件費)、メンテナンス・コスト(パーツ代、シール保守費その他の修理費)

の合計である。

トラブルが多い場合はマグネットポンプのコスト削減効果が大である。ちなみに、弊社での実績でマグネットポンプのトラブルはシールポンプのそれの30%である。

「WORLD PUMP」2002年3月号掲載記事(日本語版)


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